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2020年7月3日

総務大臣 高市早苗 殿

平和と民主主義をめざす全国交歓会(ZENKO)
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平和と民主主義をともにつくる会・大阪
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カサビアンカ関目103号室
代表:山川 よしやす
TEL(携帯):090-8536-3170

 

大阪市における『大都市制度(特別区設置)協議会』において採決された『特別区設置協定書案』について、総務大臣として破棄・差し戻し再協議とする意見を求める請願書

 

 

【請願趣旨】

大阪府、大阪市は2020年6月19日に開催した第35回『大都市制度(特別区設置)協議会(以下、「法定協議会」)』において大阪市を廃止し4つの「特別区」に再編する『特別区設置協定書案(以下、『協定書案』)』を強行採決し、可決した。

現在、『協定書』は、「大都市地域における特別区の設置に関する法律(以下、「特別区設置法」)」第五条に基づき総務大臣に報告され、総務大臣からの意見を求める手続きに入っている。大阪維新の会は、8月末から9月の大阪府市議会で議決し、11月1日に再度、大阪「都構想」(以下、「都構想」)の是非を問う住民投票を実施しようとしている。

しかし私たちはこれを認めることはできない。現在提出されている『協定書案』の破棄・撤回を大阪府、大阪市、法定協議会に求める。

 

その理由は、<第一に>この『協定書案』は、新型コロナ感染症拡大による危機(以下、「コロナ危機」)を前提としておらず、特別区における感染症対策と財源など全く勘案されたものではないということである。

(1)法定協議会は、2017年6月27日に第1回目が開催され、2020年6月19日まで35回を数えた。その内、コロナ危機を意識せず『協定書案』について協議してきた法定協議会は、2019年12月26日に開催された第31回までであった。その後、世界を席巻したコロナ危機の情勢下にあって開催された法定協議会は、2020年1月31日の第32回法定協議会から数え、わずか4回しかない。既に『協定書案』は完成段階にあり、結局感染症対策を勘案することなく成案として第35回法定協議会に提出され、強行採決された。

(2)今後、コロナ危機は一層深刻化する。世界の新型コロナ感染者数は、1日当たり過去最多の18万3千人超に上った(6月22日WHO・世界保健機関)。世界の感染者数の累計は1010万人を突破し、死者は50万1千人に達した(6月28日ロイター集計、6月29日『Newsweek』)。東京都では新たな感染者が増え続けており、国土が狭く、かつ経済流通による人の移動が顕著となる大阪市など都市部において感染症対策は喫緊の課題である。

また6月24日、IMF(国際通貨基金)は、世界経済見通しで2020~21年の経済損失を世界全体で12兆5000億ドル(約1300兆円)と試算した。2020年世界実質成長率についてはマイナス4.9%との予測を発表した(前回4月予測から1.9ポイント下方修正/日本:0.6ポイント引き下げマイナス5.8%)。そして2020年の世界経済は、「(1930年代の)世界恐慌以来、最悪の景気後退になる」と指摘している。

これらの情勢は、大阪府市民の命と健康、生活と経済に直結する。

(3)コロナ危機は、世界でも日本国内においてもこれまでの社会システムの在り方と、その認識を一変させた。政府、自治体におけるPCR検査をはじめコロナ無料検査拡大と適切な隔離・治療を行うことのできる病院と病床や人材の確保とその財源保障。医療、介護、教育、保育などの拡充と、個人給付、休業補償などあらゆる分野における命と生活を守る施策の充実が求められている。

大阪府市には、住民の命・暮らし・財産を守る責務が存在する。コロナ危機といわれる情勢下にあって、これらを最優先課題としなければならないことは当然である。

(4)しかし、前述の(1)で示したように、『協定書案』は感染症拡大の影響をその前提条件としていない。『協定書案』の基礎をなす財政試算は、コロナ危機以前のものである。世界的に悪化すると予測された経済指標のもと、大阪府市の税収は極端な減収となる。財政状況が激変することが分かっていながら、現状の収支を前提にして作成された『協定書案』を認めることはできない。

法定協議会においても、「『協定書案』がコロナ感染症対策など想定していない」との指摘が出された。これに対し松井大阪市長は、「(特別区になっても)財政調整基金(自治体の貯蓄)もあるので(感染症対策は)成り立つ」と言い切っている。大きな財源と権限を持つ政令指定都市・大阪市を解体し4つの特別区に再編するという『協定書案』について、協議過程で各特別区の財源と規模が大きな問題となった。松井大阪市長は、感染症対策を勘案した財政シュミレーションさえ行っていないにも関わらず、どうして「財政調整基金もあるので成り立つ」などと言えるのか。根拠はまったくない。大きな財源を持つ東京都でさえ、今回数カ月の感染症対策によって財政調整基金のほとんどを取り崩しているのである。

『協定書案』は別表も含めると965ページに及ぶ膨大なものである。しかし、「財政調整制度の設計」や「特別区設置に伴うコスト」など、全ての内容を確認しても「感染症対策」の文言は一切ない。コロナ危機に対する自治体施策を考えたとき、大阪府市とも基礎財政の在り方を根本から変え、改編することが求められる。松井大阪市長は、「財政調整基金で対応する」など軽口をたたき、言い逃れをすべきではない。

(5)そもそも大阪市が財政調整基金を口にできるのは、〝いま苦しんでいる市民を助けるためにお金は使わない。「都構想」成立後であれば財政調整基金を使う〟ということを前提にしているからである。各自治体は、財政調整基金をコロナ緊急対策に充て市民生活を支えている。しかし、大阪市は全国20の政令指定都市の中で最大の1491億円の財政調整基金があるにもかかわらず、ここから1円も支出していない。また大阪市の第3回補正予算は一般財源106億円の内、『生活に困っている方への支援』について7千5百万円(一般財源のわずか0.7%)しか支出していない。これらは直面するコロナ感染症対策ではなく、大阪維新の会(以下、「維新」)の悲願である「都構想」と「カジノ誘致」を優先し、それに財政支出するためである。

(6)日本の医療は、歴代政権の下で切り捨てられ脆弱化した。安倍政権は「骨太方針2019」に基づき、感染症指定病院を含む全国440カ所の公立・公的病院に対して今年の秋までに再編統合・縮小を進める厚生労働省通知(1月17日)を出した。重篤患者に対応できる感染症病棟は全国にわずか410病院・1871床しか存在せず、保健所も1995年の845か所から2019年472か所に激減された。コロナ危機を深刻化させているのは政府の政策であり、人災と言える。

これらの動きと歩調を合わせ、維新を首長とする大阪府市政は、医療の切り捨てを推進してきた。1950年から公的医療機関として地域医療の拠点という役割を果たしてきた大阪市立住吉市民病院は、「二重行政」の名のもとに閉院とされた。また松井大阪市長は、独断で十三市民病院をコロナ専門病院にすると発表したが、これにより同病院で出産を予定していた280名もの妊産婦の皆さんは感染症と出産の不安を抱えたまま追い出された。なみはやリハビリテーション病院でのクラスター発生と、陽性反応がある看護師の勤務が批判されたが、保健所が「陽性でも勤務させざるを得ない」と相談を受けてもスタッフ派遣などの対応もせず放置し、医療態勢脆弱化させてきた政府と大阪府市政の責任は、どこでも追及されていない。また275万人超が生活する大阪市に、保健所は1カ所しかない。

医療脆弱都市である大阪市を感染症対策も検討しないまま解体し、財政力の弱い4つの特別区を作るなど許されることではない。

(7)吉村大阪府知事は、緊急事態宣言に基づく中小・零細企業への実質的な休業強制について当初〝東京都とは財政規模が違う。協力金は出せない〟としていた。批判が大きく後日撤回した。特別給付金10万円の給付は全国で57.9%が給付済みと報道された6月23日現在で、大阪市はわずか3.1%であった。大阪市は、トッパン・フォームズとJTBに特命随意契約により16億円で給付事業を業務委託したが、よりスピーディな給付を行うための大阪市独自の体制構築に責任を持つことを怠ったのだ。また大阪市は、子育て世帯臨時特別給付金を対象児童1人あたり1万円支給としているが、財源は国庫であり大阪市からの支出はない。大阪市より遥かに財政規模の小さい福井県勝山市は、所得制限を設けず1人当たり6万円を支給している。明石市では、補正予算を組み一人親家庭に対し児童扶養手当+5万円上乗せ給付を行っている。

大阪府市政は、倒産の危機にある事業者や無収入となる府市民の窮状を本気で考えないまま、「都構想」の制度案作りに奔走している。

(8)『協定書(案)』は、感染症対策を前提とする防災計画を講じていない。大阪では北部地震から2年が経過しているが、高槻市など災害対応をしながら通常業務をどう続けるかが問題となっている。豪雨・台風、予測しがたく発生する南海トラフ地震などの対規模災害とその悪条件化における感染症対策は複合的に考えなければならない。しかし『協定書(案)』はこうした事態を想定してはいない。さらにこうした大規模災害時に「都構想」移行業務が加われば、実際の大阪府市の防災業務は大きく混乱し遅滞する。

また特別区の本庁舎の地理的な位置や職員体制にも不備があり、災害時に住民の避難誘導や3密を避けた避難所確保に困難が生じることが指摘されている。加えて初動対応の職員の参集にも問題は生じる。北部地震の時、出勤できない職員が多数現出した経験から「最寄りの区役所へ」とのルールが明確化されたが、『協定書(案)』はこれらを想定していない。

(9)最後に、法定協議会は「都構想」を進める理由として「経済効果がある」ということを根拠の一つとし、大阪市副首都推進局が委託した嘉悦学園による「試算」では、制度移行から10年間の経済効果について「約1.1兆円ある」としてきた。しかし法定協議会で根拠が曖昧であると指摘され6月8日修正せざるを得なくなった。5515億~1兆1511億円としてきた効果額は、最大で387億円縮減すると減額修正。効果額を試算した報告書で使用したデータなど94カ所の誤記載が確認された。誤記載の判明は2月に続いて2回目となり、訂正箇所は計約130カ所に上る。『協定書(案)』に直接引用されてはいないが、前提となる経済効果についての信頼は失われている。

 

以上、概観しただけでもコロナ危機の影響を想定せず第35回法定協議会で強行採決、可決された『協定書案』は不備であるといえる。感染症拡大の影響など重大なファクターとして考慮し、『協定書案』の基礎をなす財政試算の見通しなど新たに勘案した全面的な見直しが要求される。破棄、差し戻しの上、再度協議をすることが妥当である。

法定協議会で『協定書案』に賛成を投じたのは、吉村大阪知事、松井大阪市長をはじめとする大阪維新の会の10人、2019年5月に反対から賛成に転じた公明党4人、そして新たに賛成へと鞍替えした自民党大阪府議の2人である。わずか16人によって、大阪の未来が壊されることがあってはならない。

 

<第二に>地方自治法と『協定書案』における「特別区制度(案)の概要」と「特別区の名称・区域、本庁舎の位置、議員定数」について法的整合性が欠如していることである。

(1)地方自治法第四条は、以下定めている。

1 地方公共団体は、その事務所の位置を定め又はこれを変更しようとするときは、条例でこれを定めなければならない。

2 前項の事務所の位置を定め又はこれを変更するに当つては、住民の利用に最も便利であるように、交通の事情、他の官公署との関係等について適当な考慮を払わなければならない。

3 第一項の条例を制定し又は改廃しようとするときは、当該地方公共団体の議会において出席議員の三分の二以上の者の同意がなければならない。

(2)『協定書案』では、現在の大阪市24区を再編し4つの特別区(ここでは仮に新淀川区、新北区、新中央区、新天王寺区と呼称する)を設置することを予定している。『協定書案』は、2015年に5つの特別区を設置するとした『協定書』と比較し多くの変更点はないと評されているが、大きな差異として提案されていることがある。地方自治法第四条に定められている事務所(特別区区役所)と「特別区設置当初の職員数」についてである。

『協定書案』によれば、初期コストの削減のため4特別区とも新庁舎は建設せず、現在の大阪市役所を複数の特別区が間借り使用する案としている。例えば新淀川区では全職員2420人中878人、新天王寺区では同2620人中583人が新北区の本庁舎内(現大阪市役所本庁舎)に配置される。計1461人もの職員が他の自治体庁舎で勤務する異例の形となる(【図表①】 2019年12月11日『朝日新聞』参照)。新淀川区、新天王寺区における地方自治体としての職務分掌は実質的に二分され、独立した自治体とはいえない状態となる。

(3)これは地方自治法四条1項の「事務所の位置を定め又はこれを変更しようとするときは、条例でこれを定めなければならない」に該当し、同3項の「当該地方公共団体の議会において出席議員の三分の二以上の者の同意」のもと条例でこれを定めることが必要とされると考える。『協定書案』には、この定めについての記載はない。また大阪市会において出席議員の三分の二以上の者の同意によって新たな条例は制定されていない。

(4)さらに新淀川区から新北区の本庁舎までの移動距離は地域によって相当の時間を要する。同2項にある「住民の利用に最も便利であるように、交通の事情、他の官公署との関係等について適当な考慮を払わなければならない」との定めに違反している。またこのような状態に職員が置かれることを想定した場合、防災上の問題が発生することは上記<第一>の(8)で述べた通りである。

(5)仮に住民投票で新淀川区対象地域の市民の大多数が反対票に投じたとしても、大阪市全体で賛成が過半数を超えた場合、新淀川区の市民は職員の大半が新北区庁舎内に配置されることに納得が得られるとは考えられない。『協定書案』は地方自治法に違反している疑いがある。「都構想」実現のため、法理にかなわぬ職員配置によって4特別区における行政責任を空洞化する『協定書案』は、破棄し差し戻し再協議とすべきである。

(6)「地域自治区」について。『協定書案』では、例えば新北区の下に城東地域自治区というように「地域自治区」を設置し建材の大阪市24区の区役所所在地に地域自治区の事務所を置き、「区役所」の名称をつけるものとしている。確かに地方自治法第三編第二章 特別区(市に関する規定の適用) 第二百八十三条で「この法律又は政令で特別の定めをするものを除くほか、第二編及び第四編中市に関する規定は、特別区にこれを適用する」と2000年に特別区は市町村と同じ基礎自治体と規定され、特別区に市の規定を適用する「準用規定」が設けられた。しかし「地域自治区」は権限が特定されているため「区役所」の名前をつけるのは、事務権限上これを有しないと考える。

後段<第三に>の(4)において、『協定書案』に表記されている「副首都」「都区協議会」という表現について指摘したが、権限も存在していないのに「区役所」の名称をつけるのは誤りである。ここには、「都構想」によって地域住民の暮らしにとって必要不可欠であり身近な「現区役所がなくなるのではないか」という市民の不安を払拭し、「都構想」賛成へと誘導する意図が見て取れる。「地域自治区」事務所について「区役所」という名称は撤回すべきである。

 

<第三に>大阪府、大阪市、法定協議会は、『協定書案』作成過程において市民にその内容を十分周知する努力を怠っていることである。また『協定書案』は、可能な限り市民意見を聴取し、これに反映させて作成したものとはいえない。

(1)「特別区設置法」第七条2項は、「選挙人の理解を促進するよう、特別区設置協定書の内容について分かりやすい説明をしなければならない」としている。この条項は、「関係市町村における選挙人の投票」に係るものであるが、その法の精神は「大阪市の廃止と特別区への再編」という極めて重大な判断に際し、主権者である住民、選挙人に対して、その審議過程から『協定書案』の内容について十分な理解を深めるための真摯な努力を必要とするものと解される。

(2)法定協議会は、当初『協定書案』を説明し市民の意見を聞く場として「出前協議会(住民説明会)」の開催を予定していた。しかし、4月に市内わずか4カ所で参加人数を絞って開催する予定であった「出前協議会」は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で中止された。再度5月に開催することを決めたが、結局これも中止されている。新型コロナウイルスの感染症拡大という不測の事態ではあるが、市民が直接説明を受け、意見する場が奪われたことは事実である。

松井大阪市長は、「出前協議会」について当初から「反対論の意見は時間が限られているからご遠慮願いたい」と述べていた(2019年12月11日『日本経済新聞』)。市民の意見に真摯に向き合う姿勢が初めからなかったため、「出前協議会」は延期ではなく簡単に中止されたのである。

(3)また6月11日に開催された第34回法定協議会には、市民から2376件の意見が寄せられ正式に888件が受け付けられた。その内、最も多かった意見は「都構想」よりも感染症対策を優先することを求めるものであった。「感染拡大を防ぐために大阪府も大阪市も全精力を傾注すべき」「新型コロナ感染症の非常事態に、特別区制度を考えることはできない」「特別区制度に関わる人材や財源は、新型コロナ対策に投入すべき」「制度案の賛否を考える余裕はありません」などの意見は596件、全体の67%を占めた。また新型コロナの影響を踏まえ「制度案の財政試算をやり直すべきだ」との意見も46件あった。出席した委員からも、「(住民投票は)今は、やめてほしいという意見が圧倒的」「新型コロナ対策をすることが市民の願い」「いまやるべきは大阪市廃止に血道をあげることではなく、政令市・大阪市の力を発揮して、公衆衛生機能と医療体制の強化、市民の営業とくらしの支援に全力を尽くすべき」などの意見が出された。

しかし法廷協議会は、これら市民と委員の声を切り捨てた。広く市民の合意形成を進めようとするのであれば、コロナ危機下にあって強引に『協定書案』を採決するのではなく、感染症が収束した後、予定通り「出前協議会」を開催し、説明責任を果たし市民の意見を聴取した上で採決すればよい。維新が多数派である大阪府市政は、本来の住民自治、市民自治の原則に背を向け、住民、選挙人に出来得る限りの説明責任を果たす可能性を排除したのである。

(4)さらに大阪市は、大阪市ホームページ(ページ番号:488688)に広報動画 『特別区制度(いわゆる「大阪都構想」)について』の中で、「なぜ、特別区制度が必要なのか」「住民サービスの最適化」と称する映像をアップしている。住民投票において『協定書案』に賛成を投じさせるために、公費を使い宣伝映像をネット配信しているのである。また幾つかの刊行物も同様である。本来、『協定書案』の賛否について中立・構成を原則としなければならない自治体が、住民投票の告示どころか大阪府議会、大阪市議会による『協定書案』の承認さえなされていないにもかかわらず、「都構想」賛成に住民意思を誘導することなどあってはならない。

また「副首都」という表現についても問題である。仮に特別区が設置された場合、大阪府は「都」としての扱いは受けるが名称が「大阪都」になるわけではない。『協定書案』の15ページ「八 その他特別区の設置に関し必要な事項(法第5条第1項第8号関係)」の「1」で「大阪府・特別区協議会(仮称)」が「都区協議会」と表現されているがこれは虚偽である。「副首都」は存在しない。根拠のない表現で市民宣伝することは誤りである。

(5)法定協議会は、「特別区設置法」第七条2項に定められている「選挙人への説明」責任を軽視している。それは2020年6月10日に法定協議会によって発行された〝『大都市制度(特別区設置)協議会』だより 第10号(以下、「第10号」)〟の記載内容に表れている。

※「第10号」に掲載された『特別区設置に向けた工程表について』は別記。【図表②】を参照。

【図表②】に示されているように、「工程表」の表記にある「協議会で協議」の枠内にある「意見募集」(※1)は、住民説明会の中止によって十分になされてはいない。さらに表記「特別区設置協定書について府市両議会の承認」→「特別区設置の賛否について住民投票」の間(※2)には、「特別区設置法」第七条2項の定めにより必要とされる「選挙人への説明」について、全く記載がない。

2015年に大阪市で行われた住民投票(2015年4月27日告示・5月17日投開票)では、告示前に住民説明会が開催されている。市民の関心は高く、13日間で計39回行われた住民説明会には3万2千人を超える市民が参加している。この時、世論は二分し「都構想」反対の意見も数多く出された。住民投票の結果は、大阪市の存続を選んだ市民の70万5585票が過半数を超え、「都構想」は否決された。重い意思決定であった。

しかし維新は再び住民投票を行おうとしている。仮に住民投票を行うのであれば、2015年の前例に基づき工程表に「住民説明会」を記載するのは当然である。「第10号」は、意図的に「選挙人への説明」の記載を行わず、その責任を回避しようとしている。維新は、前回の住民投票に向けて開催した住民説明会で反対意見が噴出したことを踏まえ、〝住民説明会は開催したくない、よしんば開催したとしても市民に広く周知することなく小規模で終わらせたい〟と考えていると推察される。これは前述の松井大阪市長の「反対意見はご遠慮願いたい」の発言に象徴される。

 

大阪維新の会という一地方政党の悲願である大阪「都構想」実現のために、行政が歪められている実態は民主主義の形骸化という重大な事態を生み出している。

維新による「大阪都構想ありき」「政治日程ありき」の大阪府市政は、中立・公正の立場から真摯な態度で『協定書案』について説明することもせず、主権者の意見を聴取する機会さえ封殺している。行政として当然行うべき「特別区設置法」第七条2項に定められている「選挙人への説明」責任をサボタージュし、正しい情報の下で主体的な判断をする機会を市民から奪っているのである。

維新は大阪府議会、大阪市議会において多数である。維新は、主権者である市民の意見を聞かずとも議会の数の論理によって政策決定がなされればよいと考えている。感染症対策を前提にしていない瑕疵の存在する現在の『協定書案』について審議を尽くすことなく採決できるのは、理性的判断を既に失しているからである。このまま大阪府市議会で採決され11月に住民投票の実施となれば、大阪府市民の命と健康、生活は根本から破壊されることになる。

 

<第四に>11月1日を「住民投票」の投開票日とする日程の問題である。

(1)新型コロナ感染症の第2波が予測されるこの時期に「住民投票」を実施することは許されない。2015年の「住民投票」における否決についてその後分析がなされ、「70代以上の高齢者に反対が多い」「所得の低い地域に反対が多い」ことが明らかになった。2019年4月7日に投開票されたいわゆる大阪「W首長選」結果後、橋下徹氏は、「都構想に反対した年配の人がどんどん死んじゃった(4月8日フジテレビ『とくダネ!』出演時)」と選挙結果を分析し、不遜な発言をしている。

(2)新型コロナ感染症下で実施される「住民投票」は、基礎疾患・既往症が多くみられる高齢者は3密を避け期日前投票も含め投票所に向かう条件が制約される。高齢者の投票機会を奪う意図が介在するのであればとんでもないことである。また、その意図がないにせよ客観的に高齢者の投票率は抑制されると考えられる。

大阪市の在り方を決める大切な「住民投票」である。高齢者をはじめ多くの市民の民意が反映されなければならない。また大阪市に定住する在日外国人など、全ての市民を有権者・選挙人とすべきである。

 

以下、請願する。

【請願事項】

1.20年6月19日、大阪市における『大都市制度(特別区設置)協議会』において採決された『特別区書案』は、コロナ危機を想定しておらず制度設計そのものに瑕疵が存在する。総務大臣として大阪府、大阪市、大都市制度(特別区設置)協議会に対して、破棄、差し戻し再協議とする意見を提出することを求める。

2.特別区の市役所機能を二分する職員配置と事務所設置は、市民サービスの低下を招く。意図的な説明責任回避は許されない。『協定書案』は、地方自治法に抵触している可能性がある。

2015年の「都構想」に関する『協定書案』について高市早苗総務大臣は「特段の意見はない」との意見を述べた。しかし今回の『協定書案』は、2015年と内容を異にする。「一言」で終わらぬ意見を求める。

 

【質問事項】

1.『特別区設置協定書案』に関する総務大臣の意見取りまとめの期日、また大阪府市へ意見送致する期日はいつか。

2.『協定書案』は新型コロナ感染症の影響をその前提条件としておらず、『協定書案』の基礎をなす財政試算は、感染症拡大以前のものである。深刻な悪化が予測される大阪府市の税収と、厳しい財政状況を勘案すれば、『協定書案』を実際に実行することは不可能であると考える。このまま『協定書案』を認めてよいと考えているのか。総務大臣の意見書の内容如何によって、大阪「都構想」は次の手続きである大阪府市議会の採決へと進むことになる。意見書の内容は、重大である。所見を求める。

3.政府は、コロナ感染症の危機にあって検査・医療態勢の充実を進めようとしている。かかる中で『協定書案』には、大阪市を解体し財政力の弱い4つの特別区に再編するとしているが、医療や感染症対策についての財源確保や病院など医療施設の充実などまったく触れられていない。所見を求める。

4.『協定書案』は、自然災害、防災時における感染症の重複災害について検討されていない。所見を求める。

5.『協定書案』によれば、現在の大阪市役所を複数の特別区が間借り使用し、計1461人もの職員が他の自治体庁舎で勤務することになり、独立した自治体とはいえない。これは地方自治法四条に違反すると考える。所見を求める。

6.『協定書案』では、特別区のもとに「地域自治区」を設置し、その名称を「区役所」とするとしている。しかし「地域自治区」は権限が特定されており「区役所」の名前をつけるのは、事務権限上これを有しないと考える。名称は撤回すべきである。

7.大阪市副首都推進局戦略調整担当に対し、「新淀川区の職員が878人も新北区の庁舎に配置されることについて地方自治法に違反するのではないか。異なる自治体の庁舎に多くの職員を配置し特別区事務所の職員数が極端に少なくなることについて特別区事務所の設置と同様、大阪市会において出席議員の三分の二以上の者の同意によって条例制定を必要するものではないか」と質したところ、「本庁舎の人数を定めた法律はない。法定協議会で(法律的な議論はないが)論議された結果」との回答があった。

担当者は「法律的論議はない」との旨述べている。これを認めることは新しく設置する特別区の主たる事務所の位置を決め、またその設置にあたる職員配置基準について法的根拠の空白を生じさせることになる。そもそも地方自治法は、当該自治体職員の多くがその主たる事務所ではなく、他の自治体事務所を共用使用し常態化することを想定していないと考える。これは他の自治体に大きな影響を及ぼす。総務大臣は、法的空白を放置したまま『協定書案』にある特別区事務所の大規模な職員相互配置を認めるのか。所見を求める。

8.「特別区設置法」第七条2項の法の精神は、『協定書案』の府市議会採択後から「住民投票」までの期間に限定するものではなく、「特別区への再編」という極めて重大な判断に際し、主権者である住民、選挙人に対して、その審議過程から選挙人に対して『協定書案』の内容周知について努力することを求めていると解される。所見を求める。

9.「法定協議会」は、「出前協議会(住民説明会)」の開催を中止し、なお且つ「特別区設置に向けた工程表」には「住民説明会」の記載がない。これは、「特別区設置法」第七条2項を速やかに履行することを軽視する瑕疵と考える。所見を求める。

10.大阪市によって公費を使い、大阪「都構想」の必要性などをアピールする映像や刊行物が作成されている。中立・公正でなければならない自治体がこのような行為を行っていることについてどう考えるか。所見を求める。

11.「法定協議会」に対して提出された市民の多くが、大阪「都構想」ではなく、コロナ対策を求めている。仮に、新型コロナウイルスの感染拡大の影響下で「住民投票」が行われるようなことがあれば、より正しく民意は反映されない。所見を求める。

 

以上、2020年7月中旬とする『請願・要請』の期日を総務省と設定し、同期日に『請願事項』と『質問項目』に対する回答を求めるものとする。

 

<参考>